女神の贈りもの


 和やかな夕食を終え、満ち足りた心地で肩を並べて後片付けをする。ひとりの時は億劫なだけの作業が、ふたり一緒なら団欒の続きのようで少しも苦にならないから不思議だ。今夜は悠季が食器洗いを受け持ち、僕が拭き上げて棚に仕舞う。共に暮らし始めた頃は、不器用な僕の手元をいつも目で追っていた悠季だが、その心配そうな視線も感じなくなって久しい。愛情や歓びを分かち合うだけでなく、家事も平等に分け合えるようになった今の自分が嬉しい。鼻歌する気分で流しと棚を往復し、最後の皿を食器棚に収めたところで、壁のカレンダーが目に留まった。
 手にとって、リングで纏められている一枚目を捲り、再び壁に掛ける。
 年が改まったのがつい昨日のことのように思えるのに、早くも一月が終わろうとしている。月日が過ぎるのはなんとも早いもので、しかもそのスピードは年々加速しているように感じる。悠季もまた似たような感覚を抱いているらしく、エプロンを外しながら歩み寄って来ると、カレンダーを眺めてしみじみと呟いた。
「明日はもう二月かぁ。あっと言う間だよねぇ……」
「ええ、本当に。子供の頃は一日一日がもっと長く思えたものですがね」
「だよな。やっぱり毎日が新鮮で感動的だったってことなんだろうね。見るもの聞くもの、新発見の連続でさ」
 悠季の手からエプロンを引き取り、今日は出番がなかった僕の物と一緒に壁のフックに吊るす。ペアのエプロンはスカイブルーと群青色の色違いで、並んだ時の色味の調和が気に入っている。
「時間との向き合い方も、まるきり違いますからね。『今日は何をして遊ぼうか?』と考えていたものが、『今日すべき事は何か?』と考えなければならなくなる。仕事に縛られ時間に追われれば当然の如く余暇も心の余裕もなくなって、時間が足りない、一日が短い、という気分にさせられます」
「うん。僕もきみもさ、子供の頃から一番好きだったことを生業にしてるのに……変だよね」
「楽しいばかりでは済まないからでしょうかね。まあ、僕らも芸術家の端くれなのですから、本来ならば感性の趣くままに食指の動く仕事だけをこなして行くべきなのでしょうが……生憎、まだ仕事を選り好みできるまでには至っていない」
「あは、確かに。だからかな? 大したこともしてないのに、いつの間にか歳だけ取っちゃったって感じだよ」
 そう言って苦笑すると、悠季はカレンダーの数字を囲った赤丸を指先でなぞった。
 僕がこの手で書き入れた、僕らの大切な記念日の印。悠季と出逢った翌年に思いつきで始めたものが、今では習慣としてすっかり定着している。 
「また半年間は、僕がひとつ年下になりますね」
「まだ拘ってたのか? この歳になれば、多少の歳の差なんて関係ないって」
「ええ、まあ、以前ほどには気にならなくなりましたが」
「だろ? それこそ時間の流れ方が違う気がするってヤツだよ。歳の離れた夫婦でもさ、長年暮らすうちに歳の差を意識しなくなるって言うし、僕らだってあと五十年もしたら、齢の差どころか自分の歳も意識しなくなるぜ、きっと」
 五十年後の僕らは、いったいどんな老人になっていることやら。それを思い浮かべでもしたのか、悠季は目を細めてクックッと笑った。
「歳を意識するかどうかは兎も角、日々が新鮮で感動的だということなら、僕は現在もそうですし、五十年後もそうである自信がありますよ」
 その感動と喜びを与え続けてくれる、唯一無二の愛しい存在。
 細腰に腕を廻して引き寄せ、後ろからゆったりと抱き捕えた。
「それってさ、きみは幾つになっても子供のまんまってことかい?」
 なんたってBebeだもんな、とでも付け加えたそうなからかい口調に、僕は意趣返しとばかりに悠季の耳朶を甘噛みしながら囁いた。
「いいえ、きみが傍に居てくれるお陰ですよ」
 悠季はふふっと笑みを零すと僕の胸に凭れ掛かり、甘える仕草で肩に頭を預けてきた。
 柔らかな髪に鼻先を埋め、唇で弄れば、悠季も腰に廻された僕の手をゆるゆると撫で擦る。情欲を掻き立てるのではなく互いの温もりを確かめ合う行為は、言葉に頼らずに交わす会話のようだ。僕はともすれば落ち込みそうになる気分を悠季の温もりで癒してもらいながら、赤丸の下に書き込まれた文字を焦点の合わない目で見つめていた。
 僕の人生に光を取り戻し、生きる喜びを与え続けてくれる悠季がこの世に生を受けた、僕にとっては聖日とも思える日。一秒たりとも疎かにせず、最上の瞬間で埋め尽くし、心からの感謝を捧げたいところなのだが……。空白のままにしておきたかったマス目には、無情にも仕事の予定が書き込まれている。
「ねえ、何を考えてる?」
 僕の遣る瀬無い想いが伝わったのか、カレンダーに目を向けたままで悠季が問う。
 溜息を飲み込む間の一呼吸を置いて、答えた。 
「きみの誕生日をゆっくり祝いたかった、と」
「仕事は夕方までだろ? 夜は一緒に過ごせるし……あ、それとも、予定が変わった?」
「いえ、シャンパン付きのディナーはむろん死守しますが。せめて小旅行にでもお誘いして、楽しい時間と感謝を込めた祝福を捧げたかったと。……すみません、なんとも因果な商売だ」
「因果な商売はお互いさまだよ。祝日のお陰で休みじゃああるし、連休にも絡んでるけどさ。実技試験の真っ最中じゃ、旅行は無理だよ」
「連休中に特別レッスンでもありますか?」
「そうじゃなくて。凡才教師に教えられる不運な生徒の出来が心配で、旅行気分にはなれないだろうな、ってね」
 悠季は顎を逸らして僕を見上げると、ごめんね、と呟いた。
「またきみは、そんな謙遜を。しかし、それではディナーを楽しむ気分にもなれませんかね?」
「あはっ、それは大丈夫。きみと乾杯するのを楽しみにしてるよ」
「では、良さそうなレストランを見繕っておきましょう」
「ええー? いいよ、うちで! その方が水入らずでゆっくり過ごせるじゃないか。あ、でもそうすると、きみに負担が掛かっちゃうか……」
「……いえ、やり様はあります。任せてください」
「あのさ、いつかの誕生日みたいに、また伊沢さんを呼びつけるとかじゃないよね? それだったら僕は自分で作るぞ?」
「ちゃんと僕が作りますよ。水入らず、がいいのでしょう? ええ、確かに。その方がいろいろと都合がいい」
 言うと同時に、悠季の腰を抱いていた手を下にずらした。
「ちょ……っ! け、圭っ!?」
 ズボンの上から優しく揉みしだきながら囁いた。
「ほら、こんなことも自由に出来ます」
「ま、待てってばっ! そ、そんな意味じゃ……ないっ……あっ!」
 あふっ、と仰け反った唇を塞ぎ、反論も抵抗もする気がなくなるまで貪ってから抱き上げた。
「では、特別な夜の為のリハーサルといきましょう」
「本番は十日後だぞ? 早すぎるよ」
 悠季はそう言って抱き上げられた腕の中から僕を睨んできたが、とろりと潤ませた目元ではまったくの逆効果で、僕はすっかり煽られた格好で度を過ごしてしまったのだった。



 暖冬との長期予測が外れて厳しい寒さとなったこの冬、立春が過ぎ、暦の上では春になっても、寒さは一向に緩まなかった。実技試験が目前に迫ると受け持ち学生の誰もが臨時の追加レッスンを希望するらしく、悠季はその寒さの中を足しげく大学に通っていた。
 凍った道で転びはしないか、風邪をひきはしないかと気にはなっても、僕に出来ることは「足元に気をつけて、暖かくしておいでなさい」と言ってやることぐらいだ。一度、たいそう北風の強い日に、思い余って「車で送りましょう」と言ったところが、「こんぐらいの寒さ、越後の人間にはなんてことねぇて」と笑って取り合ってもらえなかった。だが、僕がちょうど地方公演で三日ばかり留守をした折に、東京は雪に見舞われて大変だったらしい。
「積もったって言ってもさ、せいぜい五センチってところだよ? なのに電車もバスもダイヤはめちゃくちゃでさ。遅刻しそうになって、マジで焦った〜〜」
 レッスン室は一時間刻みの予約制で、試験前のこの時期はびっしり埋まっているのだそうだ。開始が遅れたからといって延長は出来ず、レッスン時間を短縮するしかない。それでは学生に申し訳ないと―――実に悠季らしい律儀さだ。
「危ない目には遭いませんでしたか?」
「うん、まったく平気。運動靴で行ったし、雪道歩くのは慣れてるからね」
 慌てて転んで怪我などしなかったかと訊ねた僕に、悠季は当然という顔で答え、それから呆れているような苦笑を添えて言い継いだ。
「でも、ノーマルタイヤで無理して立ち往生しちゃった車とか、革靴やハイヒールで滑って転んでる人は結構見たよ。そんなの当然の結果なのにさ。都会ってホント、雪に弱いよねぇ」
 僅かな積雪で右往左往する都会の様子は、雪国の人から見れば、さぞ滑稽なことだろう。
「積雪など滅多に無いと高をくくって備えを怠っていますし、雪を甘く見ている面もあるのでしょうね。こちらがいくら気をつけていても、そういう不心得者に巻き込まれる危険もあります。雪国の常識は通用しないと思っておいた方がいい」
「うん、解ってるよ。巻き込まれて大事なヴァイオリンを壊しでもしたら、悔やんでも悔やみきれないからね」
「僕は、きみの身体を心配しているのですが」
 僕の命よりも大切な、それこそ掛け替えの無い存在なのですよ、と言い募った僕に、悠季は気障だと笑いつつも謝罪のつもりなのだろう可愛らしいキスを贈ってくれた。



 そうして瞬く間に日は過ぎ、迎えた悠季の誕生日。
 昨日のうちに食材を買い揃え、メインのシチューは作っておいたので、帰宅後にはサラダと前菜を仕上げればディナーは完成する手はずだ。今日一日は悠季をのんびりさせてやりたいと思い、僕は朝食の支度と同時に悠季の昼食も作るつもりで、いつもよりも早めに起き出した。
 まどろんでいる悠季の唇に、触れるだけのキスで「おはよう」と「誕生日おめでとう」を伝え、「まだ寝ていていいですよ」と声をかけて階下に降りたところが―――
 窓の外を見て呆然としてしまった。
 とても東京とは思えない景色が、一面の銀世界が広がっていたのだ。
 積雪量はどのぐらいだろう。二十センチ? いや、もっとか?
 兎も角、先日悠季が「都会はこれだから……」と苦笑していたようなレベルではない。確かに昨日の予報では強い寒気が南下してくるとのことだったし、雪が降るかも知れないとふたりで話してもいた。だが、一晩でこんなに積もるとは思いもよらなかった。
 底冷えのする台所に行き、暖房を点けたその手でテレビのスイッチを入れる。どのチャンネルも、すっかり雪に覆われ人気の途絶えた街角の様子を中継しながら、何十年ぶりかの記録的な大雪、と報じていた。冬のフィナーレに相応しい華々しさではあるが、感心してばかりも居られない。何しろ繰り返し伝えられる交通情報は、然もありなんと納得させられると共に、やはり途方にくれてしまう内容だったので。航空便は勿論のこと欠航、新幹線や在来線、私鉄各線からバスに至るまでが全面運休。東京近郊の地上の足はすべてがマヒ状態で、地下鉄だけが辛うじて動いているというありさまだ。
 当面必要な情報は得られたので、静かな雪の朝には不似合いなテレビの音声を絞った。
「さて。どうやって泉岳寺まで行きましょうかね」
 薬缶を火にかけてガス台の前に立ったまま、目下のところ最大の問題に思案を巡らす。この分ではタクシーも実質休業状態だろうし、我が家の車を出すなど論外だ。なにせスノータイヤはおろかチェーンすら持っていない。「備えがない」と指摘した僕自身もまた甘く見ていたのだという事実を、図らずもこうして露呈してしまった格好だ。残るは最寄りの地下鉄駅まで歩いて行く方法だろうが、常識的に徒歩で辿り着けるような距離では無く、仮に今すぐ出発したところで、泉岳寺へはいったい何時に到着できるのだ? 往復だけで時間を使い果たし、練習時間は無くなる、といった笑えない笑い話になりかねない。しかも、身ひとつで済む僕とは違って、楽員諸君はデリケートかつ嵩張る楽器を抱えての雪中行軍なのだ。
 僕の逡巡は、薬缶の湯が沸く前に掛かってきた一本の電話で解決した。
 何よりも不可抗力であり、転んで怪我をした挙句に楽器も壊したなどという目も当てられない事態を避ける為には必要な決定だったが、事務局長の大英断には違いなかった。受話器を置いた手を思わずガッツポーズに固めて、僕は胸中で快哉を叫んだのだった。


 ガスの火を止め、テレビも暖房も電気も消して寝室に戻った。
 悠季はまだベッドの中で、羽根布団に包まって丸くなっている。パジャマのままだったのをいいことに、ガウンだけを脱ぎ落として再び僕の寝場所に潜り込む。振動が伝わったのか悠季は薄目を開け、まだ眠っているような舌足らずな口調で言った。
「……ん……け、い……? 今、何時?」
「今日は時間を気にしなくていいですよ」
「……え? けどきみ、仕事……目覚まし……電話も、鳴ったよね?」
「ええ、冬篭りして良いとの通達でした。よって僕はもう暫く冬眠します。きみも是非ご一緒に」
「は……? なんだよ、それ?」
 ようやく意識が覚めてきたらしく、何度も目を瞬きながら頭をもたげる。サイドテーブルに伸ばした手に、先回りして眼鏡を載せてやった。
「窓の外を見てご覧なさい。きみのファンの女神たちから素敵な誕生日プレゼントが届いていますよ」
 悠季は意味不明だというように首を捻っていたが、昨夜の会話を思い出しでもしたのかハッと起き上がり、ガウンも羽織らずに窓へ歩み寄った。
「えっ? なにこれ!? マジ〜!? すごいよ! 東京じゃないみたいだ! うっわ〜〜〜っ」
 窓枠に取り付き、ガラスに額を押し当てんばかりにして歓声をあげる悠季は、「今日で何歳になったのですか?」と思わず訊ねたくなるようなはしゃぎっぷりで。込み上げてくる笑いを堪えながら無邪気な後ろ姿を眺めて、どれぐらい時間が経っただろう。僕の存在をようやく思い出したように振り返り、説明を求める眼差しで見つめてきた。
「記録的な大雪だそうで、電車もバスも、地上の足はすべてマヒ状態です」
「じゃあ、もしかして……休みになったの?」
「はい、練習日で幸いでした。その分、明日は大変かも知れませんが」
「それで冬眠なわけ?」
「いい案でしょう? どうせ何処へも行けないのですから。 悠季、その格好では風邪をひきます」
 布団の端を持ち上げて、いらっしゃいと目でいざなう。
「庭に出てみるのは後にして、ここでもう暫く温もっていましょう」
「……ホントに温もるだけだろうね? まだ、だるいんだからな?」
 横目で僕を睨みながら釘を刺す。前夜祭と称して昨夜は随分遅くまで何度も悠季を求めてしまったが、今日の代わりに、と大目に見てくれたことは明白だった。
「誓って年長者の仰せには従います」
 片手を上げて宣誓してみせた僕に、悠季は「よろしい」と腕組みをして尊大に頷き、笑いながら僕の腕の中に納まった。僕らは冬眠中のクマか炬燵の中の猫よろしく身体を丸めて寄り添い、とろとろとまどろむ怠惰な時間を楽しんだ。

 すっかり日差しが戻った午後には、門から玄関までの通り道と前の道路の雪かきをし、ついでに庭で雪遊びに興じ、汗ばんでいるのに冷え切ってもいる身体を、ゆっくりと昼風呂に浸かって解した。それからピアノ室で久しぶりに合奏を楽しもうとしたのだが、雪かきの後の手は震えてしまってまともな演奏にならず、僕らは苦笑しながら早々に諦めて、ソファに並んでのお喋りに切り替えた。取り留めのない話題は、僕が望んでいた誕生祝いの小旅行の話から、誕生日に限らずとも記念日にいつか旅行に行きたい、という話になり、そういえば結局ハネムーンには行きそびれたという話になり、とうとう本棚からありったけの旅行ガイドやアルバムを引っ張り出して眺め始め、終いには出逢ってからの思い出話にまで発展した。
 「次は何をしようか?」と思案するまでもなく、思いつくまま気の向くままにやりたいことを楽しむ僕らは、雪に閉ざされて自由を奪われたはずなのに、逆に諸々の制約から解放されたような気分で、ゆったりと流れていく時間を満喫した。シャンパンで乾杯し、ささやかなディナーを終えた時には、僕らはとても長い一日を過ごしたような充実感を味わっていた。


「きみは本当に天上の女神に愛されているのですね」
 月明かりと僅かに届く街燈の明かりに、雪が白銀の輝きを返す。部屋の明かりを消して食後のコーヒーを片手に、僕らはピアノ室の窓から幻想的な庭の眺めを楽しんでいた。
 日中の日差しにも溶け切らなかった雪は、明日には薄汚れたシャーベット状になってしまうのだろう。路面を凍らせて都会人の脅威になるかも知れない。だが今は、まだ白く清々しい風情を見せている。
「なんだい、急に」
 僕を見上げた悠季の瞳にも、雪の照り返しが微かに映り込んでいた。
「きみの大好きな雪景色と、ゆったりと流れる時間を贈ってくれた。文字通り、天から」
 僕はそれを、人間には決して真似の出来ないプレゼントを贈られるほどに愛されている悠季への羨望と感嘆を込めて告げたのだが、悠季は何を思ったのかプッと噴き出し、それからくすくすと笑い悶えながら言った。
「ぼ、僕に言わせれば、きみの方が…よ、よっぽど、愛されてると、思うけどね」
「なぜです?」
「だってさ、僕の誕生日を、ゆっくり祝いたいって言ったのは、きみで……それを叶えてもらったわけだろ?」
 そうして笑いが治まらないままに、伸び上がって僕の頭をクシャクシャと撫でたのだ。
 いい子、いい子、と宥めるように。
 僅かな歳の差など今となっては関係ない、と言った悠季自身が、明らかに僕を子供扱いしていた。
「きみはさ、きみにしか出来ない、神様にだって不可能なプレゼントを僕にくれたんだから」
 そうして、ごくごく小さな声で囁いた。
 ―――だから僻むなよ、と。
 なんと……! 悠季は僕が女神と張り合っていると思っているのだ!
 僕は、ともすれば感情的になってしまいそうな口調を、努めて平静に保ちながら言った。
「それは誤解ですよ、悠季」
「あはっ、うん、判ってるよ、判ってる…っ」
 口ではそう言いつつも、悠季は笑い涙を拭いつつ、未だ込み上げる笑いに肩を震わせている。僕の真意は誤解されたまま、弁明はまったく取り合ってもらえないのだと知って―――開き直った。
 悠季の手から、まだコーヒーが残っていたカップを取り上げてテーブルの上に置いた。
「圭?」
 怪訝な声は無視して、横抱きに抱え上げた。
「圭っ!」
「では、僕にしか出来ないプレゼントを力の続く限り贈りましょう。どうか存分に受け取ってください」
 階段を上りながら、僕は引導を渡す気分で悠季に宣言した。



 その後、僕は記念日の度ごとに、生身の恋人である自分にしか出来ないプレゼントに拘り続けたが、かねてよりの念願だった小旅行も、さして時をおかずに果たすことが出来た。悠季の誕生日に合わせたその旅は、隅々まで拘り、完璧なプランを組み立て、周到に準備したにも係わらず予期せぬ闖入者というアクシデントに見舞われ、悠季はそれでも楽しそうだったが、僕は苦々しい思いを拭えなかった。
 僕の昔の悪友たちによる単なる嫌がらせ、と理解したのだが、あれはもしかしたら……
 悠季への愛の深さを僕と張り合おうとする女神の、嫉妬から生まれた意地悪だったのかも知れない。



FINE
2008/2/19



悠季、お誕生日おめでとうvv  一週間以上も遅れちゃって今さらではありますが、圭の時は一ヶ月遅れたし^^;……なんて、言い訳にならない! うう・・・ごめんよ〜〜><。。
何歳の誕生日を想定しようか?といろいろ資料を調べつつ考えていた時、2000年〜2002年の2月11日は三連休中なのを知って、カルネヴァーレに絡めたいと考えました(未読の方、ごめんなさい!) よってこの話は、2000年もしくは2001年の2月11日を舞台にしております。



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